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2026/09/11 11:32

テントを張って、着替えて、少しぼんやりして。そろそろ夕飯の準備を始める。

登山を始めた十数年前は、山へ行くたびに「今日は何を作ろう」と考えるのが楽しみでした。フライパンを持っていって肉を焼いたり、野菜を切ったり、わざわざ山の上でやらなくてもいいようなことを、嬉々としてやっていた気がします。

あの頃は、それも含めて登山だったんだと思います。何を食べるか。何を持っていくか。どう作るか。山へ行く前から、もう山は始まっていました。

でも、いつの頃からか少し変わりました。毎回メニューを考えて、材料を買って、仕込んで、持っていく。それがだんだん億劫になってきた。

今は、できるだけ余計なことを減らして山にいたい。考えることも、持っていくものも、現地でやることも少しずつ減らして、そのぶん景色を見たり、ゆっくりビールやコーヒーを飲んだり、何もしない時間を増やしたい。

山小屋で食事ができるなら、ありがたくお願いする。美味しいトレイルフードがあれば、それを持っていく。なかでもSmall Twistはかなり好きです。コンビニやスーパーで買える袋麺も昔よりずっと美味しくなった。

だから最近の山の夕飯は、本当に簡単です。

お湯を沸かして、入れて、少し待って、食べる。それくらい。

ただ、不思議なもので、食事そのものにはこだわらなくなったのに、最近はそれを作る鍋くらいは、少しこだわりたい。と思うようになりました。

歳を重ねるとこういうことが増えて来るように思います。昔なら機能、軽さ、価格だけを見ていたものに、今は作った人の手や、その土地の背景、長く続いてきた技術みたいなものが気になるようになる。

日本の職人さんが作る道具や工芸品にも前よりずっと惹かれるようになりました。

山道具として、軽いこと、小さいこと、便利なことはもちろん大切です。でもそれだけではなくて、誰が、どこで、どんなふうに作ったものなのか。そういう背景まで含めて気に入れる道具を、山にも持っていきたいと思うようになりました。
そこで作ったのが、YUKIHIRA POT MINIです。

大阪・八尾市にある姫乃作.の職人さんに、ひとつひとつ手作業で槌目を付けてもらっています。機械で均一に型押しするのではなく、職人さんが槌を振るいながら、ひとつひとつ表情をつくっていく。
だから、槌目の入り方はすべて少しずつ違います。同じものは、ひとつとしてありません。

整いすぎていない、少し揺らぎのある表情。その個体差も含めて、この鍋の魅力だと思っています。

使っていくうちに小さな傷が増えて、火にかけた跡が残って、少しずつ自分の道具になっていく。そういう変化や歴史も楽しめる鍋です。
日本の台所で昔から使われてきた雪平鍋の佇まいを、山へ持ち出しやすいサイズに落とし込む。

テントの前で火にかけて、湯気が立つ。袋麺を入れる。トレイルフードのためのお湯を沸かす。スープを温める。やっていること自体は、とても簡単です。

でも、職人さんが一つひとつ槌目を付けた鍋が火にかかっているだけで、その景色が少し違って見える。

使う前から少し嬉しい。火にかけている姿を眺めていたくなる。使い終わって洗ったあとも、なんとなく手元に置いておきたくなる。
簡単な食事を、少しだけ楽しい時間にしてくれる道具。

山では、すべてを合理的にしようと思えばできます。もっと軽いものもあるし、もっと割り切ったものもある。

それでも、毎回使うたびに「ああ、やっぱりこれ好きだな」と思える道具をひとつ持っていく。そのくらいの余白があっていいと思っています。
夕方、テントの前に座って「じゃじゃーん」と取り出したときに、ちょっと気分が上がる。別に誰かに見せるわけでもないし、写真に撮らなくてもいい。

ただ、自分が気に入っている。
それだけで、その時間が少し豊かになる。

YUKIHIRA POT MINIは、今の僕にとって、そんな山の夕飯にちょうどいい鍋です。