2025/11/14 12:50
夏に空木岳を歩いたときのことを、今でもときどき思い出します。
稜線に出るまでの長い登り、汗を拭きながらゆっくり歩いていると、視界の先に突然あらわれたのが「駒石」でした。
巨大なゴーレムの顔のようにも見える、不思議な存在感のある大きな岩。じっと眺めているうちに、ふくらんだ大きなバッグみたいにも見えてきて、「あの感じのバッグをつくれないかな…」と思ったのが、今回のはじまりです。
下山してからも、駒石の輪郭や、あの場所の空気がずっと頭のどこかに残っていて。
きちんと仕切られたバッグというよりも、あの岩みたいに、どんと頼もしくて、少し無骨で、それでいてどこか愛嬌のある「受け皿」のようなバッグをつくりたい。そうして形になったのが、ショルダーバッグの『Big Bag』です。
その名の通り、肩からがばっと掛けられる大きなバッグ。
車で山へ向かう朝、とりあえずジャケットやフリース、行動食、カメラ、細々したものを気にせず放り込める。
街では、仕事道具も買い物袋も子どもの荷物も、ひとまとめに受け止めてくれる。
きっちり詰め込みすぎない「余白」と、少し大げさなくらいの包容力を持たせました。
駒石の前に立ったときに感じた、「ここに預けておけば大丈夫そうだ」という静かな安心感を、そのまま形にしてみたかったのです。

一方で、もっと身軽に、身体の近くをふわっと漂うようなバッグも欲しいと思いました。
必要なものだけを手元に置いておけて、その日のシーンに合わせて持ち方を変えられる。そこでつくったのが『Float Pack』です。
ウエストポーチとして腰まわりにしっかり固定してもいいし、ショルダーとして肩にかけて、身体のまわりを軽く“浮かせる”ように持ち運ぶこともできる。
ハイキングのときも、日常の移動のときも、「これだけあればいい」という道具をそっと支えてくれる存在を目指しました。
『Big Bag』が「駒石のようなどっしりとした受け皿」だとしたら、
『Float Pack』は「歩くリズムに合わせて、身体のまわりをふわっと巡る相棒」のようなバッグ。
同じ空木岳の一日から生まれた、対になるふたつのかたちです。あの日、山の上で立ち止まって見上げた駒石の風景は、いまもRIDGEの道具づくりのベースのひとつになっています。


