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2025/04/10 17:27


僕がウルトラライトハイキングに出会った2011年頃、その世界はまだとてもラフで自由な雰囲気に満ちていた。山を歩くという行為そのものが、もっと個人的で、もっと実験的だったように思う。

当時のギアには完成された製品とは言えない、どこか不完全で粗削りな魅力があった。それはまるで、登山者たちが自宅でミシンを踏み、想像力の赴くままに、軽さだけを追求して作ったようなものばかりだった。既製品の枠を越えて、自分の感覚やスタイルに合ったものを自分で作る。そんなカルチャーが確かに存在していた。

薄くてペラペラのシルナイロン、軽くて透けるようなキューベンファイバー、そしてどこか無骨なタイベック。素材はどれも機能性だけを追求し、美しさや耐久性をあえて削ぎ落とした潔さがあった。道具としての必要性だけを見つめ、その本質だけをすくい取ったような潔い佇まい。最初にそれらのギアを目にしたとき、「こんなので良いんだ」と、どこか気が抜けたような、しかしとても新鮮な驚きを感じたことを今でも鮮明に覚えている。


それまで当たり前だと思っていた「完成された道具」の概念が、音を立てて崩れていくような感覚だった。ギアは重くて丈夫であるべき、という既成概念を覆し、軽さこそが自由への鍵になる。そこには、高機能を求める従来のアウトドアギアにはない、自分たちの手で作り上げるという自由で遊び心に満ちた精神があった。完璧である必要はない、自分にとって必要な最低限を見極めることで、本当の意味での自由を手に入れる。そんなシンプルで力強いメッセージ。

その頃を思い出し、自分自身もまた、あの時のようなギアを作りたくなった。どこか頼りなく見えても、実は必要な要素がしっかり詰まっている。使うたびに確かな満足感がある。僕自身がウルトラライトハイキングを知った時に一つのアイコンとして心に残った存在である「サコッシュ」を、今の自分なりに再構築したかった。


RIDGE MOUNTAIN GEARの『Sacoche』は、あの頃感じたシンプルな自由さを現代の素材とデザインで再現したもの。時代が進んでも変わらない“軽さの感動”と“道具の自由”を、自分なりの方法で形にしたかった。懐かしさと新しさが交錯するこのプロダクトは、あの頃の僕自身へのオマージュ。